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レポート
[ 日本初のレポート ]
モデル駆動組込み標準
 
第5期第5回 MDAテクノロジー・フォーラム(MTF) - MDA4ET : 見どころ解説


組込みソフトウェアにおけるモデル駆動:課題と挑戦 (3)
組込み/リアルタイム技術における標準
鎌田 博樹
オブジェクトテクノロジー研究所/OMG日本代表
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6. 「デジタル」の成功はソフトウェアから生まれる
前回までの連載で、「組込み」エンジニアリングをめぐる状況をマクロ的に整理してみた。今回は、モデリング技術とその標準についてお話して締めくくりたいと思う。
かつて日本では、日本のデジタル家電が半導体を含めたIT世界をリードする、という妙な思い込みがあった。しかし、もはやこのシナリオが幻に終わったことは誰の目にも明らかである。その象徴となる出来事が、今週報道されたソニーの戦略転換だった。韓国勢の追い上げなどではなく、自らの誤算による転換であるところが、より深刻であると思う。
「PS3とセル」に賭けたソニーの戦略は失敗だった。ゲームマシンに過大なスペックを詰め込みすぎたとか、マーケティングが甘かったなど、原因はいろいろあるとしても、「最強のハードがあれば」という“大艦巨砲主義”への信仰が根底にあったと考えられる。セルが悪いのではない。セルを生かすための開発環境、他のデバイスとの連携基盤などが十分に考えられていなかった。戦艦大和のレイテ特攻作戦のようなものである。大きな失敗というものは、大きな思い込み(落とし穴)から生まれる。いま必要なことは、この思い込みを徹底的に反省してみることだと思われる。我田引水的に言えば、モデルベース・エンジニアリングこそが、日本の「ものづくり」を生かす道であり、ハードウェアの凋落とともに海外勢の技術に屈していったコンピュータ産業の轍を踏まない唯一の選択である。
携帯から自動車まで、ソフトウェアはもはや製品の機能、性能、品質を支える最大の要因になりつつある。そしてソフトウェアにおける高品質、高生産性は、生産・管理のライフサイクル環境に支えられない限り、つまり個々の技術者の頑張りと職人芸に頼っている限り、遠ざかるばかりである。そうした環境は、製造企業が数十年かけて築き上げてきた生産管理システムと同じように、科学的な方法論と評価手法、最新のツール技術とスタッフのトレーニングとチームワークといった要素の組合わせであり、組織的・体系的な取組みによって実現される。それ自体が生きたモデルであると言えよう。
完全な教科書などない中で、ソフトウェアを扱う限り、知っておかねばならない公理がある。それは、
  • 「ハードウェアはソフトウェアを、ソフトウェアはサービスを、サービスは顧客を前提として生まれる」
ということであり、この「サービスチェーン」の中で、
  • 「ソフトウェアは、最大のボトルネックとなり、最終的な製品の成功を左右する一大要因となる」
ということである。従来の(つまりソフトウェアがまだ小さい存在だった時代の)やり方の延長では対処できないことは誰も否定できないだろう。
7. リスクヘッジとしてのオープンテクノロジー
思えば、「コンピュータ」というものがまずハードウェアだった時代があった。そこからの展開はまだ記憶に新しいところである。組込みの世界でも、ほぼ同じことが起きると考えてよいだろう。つまり、ソフトウェアのハードウェアからの分離は、前者の相対的優位をもたらすということ、ソフトウェアはプラットフォーム化し、やがて一部はオープンソース化するということである。RTOSにおけるLinuxの伸張など、部分的にはすでに実現している。
製品を前提とした「専用ソフトウェア」は、やがてメンテナンスしきれなくなる。ハードウェアの高い利益率を保証してきたソフトウェア環境に、逆にロックインされた例は実に多い。IBMは過去の技術的遺産の桎梏を見事に断ち切った稀有な例と言えよう。IBMがEclipseをオープンソース化したのは、プラットフォームの維持における自社の負担を最小化し、同時に新たなプラットフォームベンダーの登場を阻止する絶妙の戦略といえよう。オープンテクノロジーはリスクヘッジなのである。
現在は圧倒的に「開発受託サービス」として存在している組込みソフトウェア関連ビジネスにおいて、ツール市場が重要になることはないと思われる方もいるだろう。しかし、開発サービスにおける労働力は、必ず多様なツールに置き換えられていく。ツールがなければ生産性と品質を実現できないからである。ツールはアーキテクチャを軸に発展していく。受託サービスの側に技術的リーダーシップがないことは明らかだろう。フォーカスはソフトウェア・ライフサイクルのコントロールなのだ。ツール自体が莫大な利益をもたらすことは、たぶんない。しかし、ツールが「組込み」の鍵を握ることは明らかだろう。
変化の激しいソフトウェア実装技術における独自性を放棄し、なおかつ顧客につながるサービスチェーンをコントロールするのは、モデル(アーキテクチャ)によるしかない。IBMの技術的関心は、最も効果的にサービスを提供できるアーキテクチャのみにあり、そこでのリーダーシップは「標準」という形で、つまりIBMブランドではない形で提供される。常識的に、オープンテクノロジーを最もよく利用しているベンダーが、最大の技術的リソースを持つIBMであるのだから、それとまともに張り合えるのはマイクロソフトなど限られてくるだろう。
組込み応用製品の分野で、ソニーの轍を踏まないためには、やはりIBMと同様、アーキテクチャにおけるリーダーシップを保持し、ツール市場を育てながら製品と製品が提供するサービス、あるいはブランド価値に対する高い顧客満足度を実現していく以外にないだろう。OMGの標準が重要なのは、それがまさに組込みシステムのアーキテクチャに関わるものだからである。
7. OMGの組込み/リアルタイム技術標準
OMGの「組込みソフトウェア」関係の標準技術といっても、かなり漠然としている。UMLにしてもCORBAにしても、基本的にOMGのプラットフォームテクノロジーは、利用環境に依存しないアーキテクチャを前提にしており、そうした意味では、MOF/UML/XMI/CWMのモデリング系標準も、分散ミドルウェアのCORBAおよびCORBAサービス標準も、すべて「組込みソフトウェア」に利用可能なものである。
ちなみに、OMGでは「組込みソフトウェア」は、Real Time and Embedded Systems (RTES)として分類される。制御工学の用語であるリアルタイム(実時間)と、ソフトウェアの用語である組込み(特定目的)とは次元の違うカテゴリーだが、機械に組込まれて使用される限り、イコールであると考えてよい。リアルタイムが先に来るのは、欧米では航空機やミサイル、火砲、軍艦など、実時間性が最優先される兵器システムに使用されることが多いためである。冷蔵庫や炊飯器、AV機器、自動車などの家電、民生機械が中心の日本とは、出発点が違うことを物語っている。
日本流の「組込み=ET」は悪くないが、ETの工学的な焦点はやはりRTであることに変わりはない。それに、今日の家電、民生機器のソフトウェアは、サイズ、複雑性、品質要求において兵器システムに匹敵し、コスト条件はそれよりはるかに厳しい。製造物責任まである。RTとして生まれ育ってきたOMGの組込み標準を、どこか別の世界のものとして考えるとすれば、決定的な間違いを犯すことになるだろう。今日の家電製品、自動車、ケータイなどの通信機器に共通するのは、多機能化、マルチプロセッサ化、マルチメディア化、IPベースの通信機能などで、それらがRT性を要求されるわけだから、開発サイドのプレッシャーは、エンタープライズシステムの比ではない。
つまり、組込み/リアルタイム技術は、エンタープライズソフトウェアよりも(あるいは違った意味で)複雑で過酷なものにならざるを得ず、全体をコントロールするにはモデルをベースとしたアーキテクチャによるしかないということ、そのためにOMGで標準が開発されてきた。標準の解説は次回に回すとして、数が多いということを実感いただくために、進行中の作業を含めて、アイテムだけをざっと並べてみよう。全部の中身がイメージできる人は、ほとんどいないのでご安心いただきたい。 (続く)     ◇

■OMG採択済み仕様

  • CORBA/e
  • Data Distribution
  • DDS Interoperability
  • High Performance Enablers
  • UML Profile for CORBA Component Model (CCM)
  • UML Profile for CORBA and CORBA Component Model (CCM)
  • UML Profile for Schedulability, Performance and Time
  • UML Profile for System on a Chip (SoC)
  • UML Profile for QoS and FT
  • QoS for CCM
  • Enhanced View of Time
  • UML Profile for Voice
  • UML Profile for Systems Engineering (SysML)
  • UML Testing Profile

■関連ドメイン(分野別)標準(一部)

  • UML Profile for Software Radio
  • KBE Services for PLM RFP(製造)
  • PLM Services V2.0 RFP(製造)
  • Robot Technology Components(ロボット)
  • GEMS RFP(宇宙)
  • Operations Procedure MM RFP(宇宙)
  • Monitor & Control Service RFP(宇宙)
  • PIM & PSM for Digital IF RFP(SBC)
  • PIM/PSM for Smart Antenna RFP(SBC)
  • UPDM RFP(C4I)
  • PIM and PSM for Super Distributed Object (SDO)

■進行中のプロセス

  • EVoT Version 2.0 RFC
  • High-Assurance ORB RFP
  • Lw FT for Distr. RT Systems RFP
  • Model-level Testing/Debug RFP
  • RT Connector Architecture RFI
  • UML Profile for MARTE RFP
  • DDS for Lightweight CCM RFP
  • Robot Technol. Components RFP
  • UML Profile for DDS RFP